-----------追記-------------------------------------------------------------------------
これを書き終えてから感じるのは、やっぱりこのパビリオンに実現された視界の変容は和風のものではなく、スカルパによって発見された和風仕様という気がするのです。何故ならば和風の軒は視線位置より高く、立つ座るの中での変化は小さいもので、スカルパのパビリオンのような劇的変化は起こりません。だからスカルパの創造創作に生み出されたものだった。
実は和風の立つ座るの変化とは、床に座ることによって、座っている面の「重畳」という事が起る。座っている床面>縁側床面>庭面と面の「重畳」が意識されるのです。それによって自分の座っている床面が外部へと浮遊してゆく感覚が起ることだと思っています。これが和風の床座の庭との関係なのです。
これが椅子座では起こらない、椅子のある床面のマトマリある場が成立しているゆえに、この外部への床の浮遊という事は起こらないのです。外部へは人が出て行くのです。洋風の床は大地と一体です。大地は動かない。大地は浮遊しない。外部へは人が出て行くのです。これが伝統的な洋風の庭との関係なのですから。スカルパはこの重畳が起らないので、パビリオンのすぐ外を池としました。池面ならゆらゆらと揺れて意識が漂うことができるからです。スカルパのパビリオンが分からせてくれたことはこれらのことなのでした。
-----------追記2------------------------------------------------------------------------
最近ブルーノ・タウトの旧日向別邸(1933)を見学してきました。
渡辺仁が地上部分2階建て木造別邸を建てており、その庭をRC造躯体で土留めとし作っていました。その地下RC造躯体の部分にインテリアデザインを設計したのがタウトでした。
タウトは吉田鉄郎からの和風の教えを受けていたという事です。
タウトの桂離宮論には「泣きたくなるほど美しい」とお庭を描写しています。そして古書院の様式を踏襲した上段の間を持つ和室をここに作っています。
また同じく上段の間を持つ洋間も作っており、この上段の間と洋間は5段の室幅いっぱいの幅広の階段で一体に繋がれています。この空間は熱海の海を眺めるために作られました。ここでは和風仕様の室内から庭を見る設定が生かされ、おまけにこの階段を利用した「もっと奥から」かつ段階を利用した視線の連続的な高さの変化を楽しむ装置として作られていました。大きくは洋間での視線と上段の間での視線の高さが変化(900)することで、水平線が見えていたものが、視線が高くなるとともに、水平線が視界の上部に消えて、海の波間の輝きが窓いっぱいに広がるという事だと思いました。(現場の視界は樹木の成長で葉が茂り海が隠されてしまっており、また上段の間に立つことができないので、想像です。)
この室内の奥(上段の間)からの海への一体感を作るために、洋間の黒光りする床が天空光によって光り輝いており、この輝きが海の輝きと一体となって感じられるのでした。この洋間の床が外の光で床が鏡のように反射するのは、日本の社寺仏閣はもちろん、一般家庭でさえ縁側やちゃぶ台が光るのが見られるのでした。タウトはこのことをよく知っていたと思われます。
このことを建築的により物語化するために、幾つかの手法を試みました。上段の間の天井は1/10海側に傾斜して、その竿縁天井が、軒天井のように感じさせながら、洋間の天井が外部天空であるかのように白色漆喰塗とし。上段の間以外の3方向の天井周りには600幅内外の竿縁天井を洋間に向けて、白色天井を囲んだ軒天井のように見せているのでした。この白天井が床に外光に反射して光る床面と、海面の反射面とのコラボレーションとして、室内と海とが連続しているかのようなメタファーが起っているのようなのです。
このような複雑な解釈は別としても、この視線の高さによる視界の変化の面白さは、スカルパのブリオン家墓地パビリオンに引き継がれたように思われます。立った時には天空が遮られ墓地内部しか見えない(上段では水平線は窓上に符合し、輝く海面だけが窓いっぱいに見え)。座ると空が視界に入ってきて解放感を味わえる。(下段では空が見えてきて海面と両方が見える。)スカルパが旧日向別邸を見ていないはずはないと思うのでした。
2o17121o
mirutake
旧日向別邸平面図 母屋(地上部分)・地下離れ
旧日向別邸地下離れ 洋間・上段の間天井伏図
旧日向別邸 断面図 左側が海
右側高くなっているところが上段の間からの視線と、そこから下がった段の途中からの視線
スカルパ ブリオン家墓地
パビリオンに立つ人の視線と、座る人の視線
旧日向別邸 上段の間、椅子からの想定窓視界を作ってみました。(地上母屋の窓からの海の視界を切り取り)
右がブリオン家墓地パビリオンで立っている時の想定視界です。二人の建築家の同じデザイン意図を感じますね。
旧日向別邸 下段からの想定窓視界(この時は順光線なので海は光っていません)
右がブリオン家墓地パビリオンでベンチに座っている時の視界です。
-----------追記3------------------------------------------------------------------------
岡山の後楽園内にある「流店」
その内部
栗林公園掬月亭
これを書いていると、同僚のUからメールがあって、スカルパのパビリオンとそっくりの建物があって、岡山の後楽園内にある「流店」と言う、流れる水を建物内に流している東屋風施設の写真を送ってきた。これを見て確かに内観写真は雰囲気が良く似ている。そこでよくよく考えてみると、規模の小さい東屋風で、欄間でなく下がり壁だと、スカルパのパビリオンのように見えると言うことだと思う。また実際東屋で欄間でなく下がり壁の例は結構あると思いますし、スカルパのパビリオンが規模が小さいので、よく似ることになりますね。
ことの本質は和風の内法高さにあるようです。室内から庭を眺める和風の作法ですと、鴨居の内法高さ1735程度に着く天井からの下がり壁によって、立つ座るの視線の位置で、スカルパの見つけた視界の変化が楽しめることになりますね。これは和風の建物ならすべて適用可能で、岡山後楽園の流店に限らないことになります。と言う事でよりことの本質を掴んだ気がしています。
スカルパも どの建物ということではなく、和風の庭を見る作法をの中で、事の面白さを見つけたんだと思いますね。
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