埼玉県立博物館 1970(65)
設計 前川國男 1905-1986(81)
photo by mirutake 2006.11
JR大宮駅から、東武野田線「大宮公園」下車。徒歩5分というところ。
懐かしい建物です。学生時代に2回、働き出して1回、今回が4回目の鑑賞です。
大宮公園駅から向かうと、この事務棟からアプローチすることになります。
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もう37年経つというのに、暗褐色のb器質タイルは全く汚れもなく、当時のままです。欅並木と良くあっていますね。木漏れ日が似合う。
b器質タイルという材料の持つ、土から造る土色に近い、黒色に近い材料なればこそ、汚れが目立たないという性格を持つのだと思う。はじめから土で汚れた色と言うことなのですから。落ち着いた場を作る材料としては、最適なものだと思うのです。
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正面入口
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当初切符売り場として作られたが、現在は使われていない。使われなくても、導入部にこのような小さな建物を見ながらアクセスするのは、親しみが感じられて良いですね。
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雁行した平面、面構成の打込みレンガタイル壁で、奥行きと淀みを造っている。
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床は施釉でつやがあり、階段踊り場(舞台)とつやを変えている。
壁は施釉なしでマット面、空目地が深い。打込みタイル固有の型枠支持穴が見える。色も各種変えて変化を付けている。前川さんが長年に渡って開発されたものですよね。
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このしっとりとした佇まいはどうですか。なかなか渋いですね。
木々と植栽の曲線、打込みタイルの面構成壁がリズムを生みながら、落ち着いた雰囲気を造っていますね。
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打放しコンクリートの梁と柱。向こう側の緑まで透けるホール。(張り紙しないで。)
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玄関ホール。打放しコンクリートの平行梁が美しい。開口の開放方向と一致している。
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食堂。
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郷土展示吹き抜け。
美術館博物館でこういう外部の自然に開いた「場」を造っていった走りと思う。
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内部通路の両側に開けられた窓から、向こう側の竹林が望むめる。
この三角形の階段はコルビジェの西洋美術館の外階段を持ってきている。
かつてはこの三角の打放し壁の階段を上って、雁行する壁の平面構成が鳥瞰できたのです。
オレンジ色の夕日に映えるこの中庭を、帰途につく人々のシルエットが美しく感じられた。
それは2階屋上通路が中庭を半分回っていて、自由に上れたのだ。
この建物ができた頃、こういう建物を上部からも見せようとした建築家の多様な視点の提供が、建築鑑賞の楽しみとして大切なものだと、設計者共有の意識となるだろうと皆の話題になったものでした。
現在は通行止めになっていて、2階外部通路には上がれません。故にその写真が撮れませんでした、残念。
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うっそうと茂る欅並木。帰路を示す雁行する壁面。
この建物は、いやきっと前川さんの建物で一番美しいアプローチ、打込みレンガタイルの広場じゃないでしょうか。
建築家はこの打込みタイルのシリーズで、雁行するプランや、アプローチを奥まで引き込んでからエントランスホールになる平面構成を始めている。埼玉県立博物館は一連のシリーズの初期に当たる。天井の打放しコンクリートの「平行」梁が、その後の「格子」梁と比べてすっきりしており、外壁を面として単純な構成として見せようという在り方も、シリーズ初期故に、はっきり見ることが出来るのではないかと思う。
これらの雁行平面や外壁の面構成は、抽象化へのデザイン意志と見ることができる。こういう構成への意志こそが、建築の作品としての抽象度が造られる。
ところが煉瓦のような仕上材は、その素材の実在感によって、建物の抽象化を阻害する物となる。現在の建築材料で煉瓦から抽象化度の高い物へと大体の順を追って列記してみる。煉瓦>白いタイル>磨きの石>平滑な打放しコンクリート>鋼板パネル>ガラス という順に、平滑度が増し、素材感が消え、大きな面を単純に作れる抽象化度の高い材料を示したことになる。建築家がかつて多用した、前衛のシンボルでさえあった打放しコンクリートも、この建物外観には梁型にわずかに使われているのみだ。晩年、抽象性ではなく、実在性といえるような物に向かったと言えるだろう。
070712 mirutake
関連hp
埼玉県立歴史と民俗の博物館(旧埼玉県立博物館)
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